2009年 11月 29日 ( 3 )

原作 「潮風にことばをのせて」 5 しまね映画祭 選考作品

【裕太からのメール】

数日後、裕太からメールが届いた。
あれだけ頻繁にやり取りしていたメールもさっぱり返信してこないし、
電話を掛けても留守電だし、イライラマックスな日が続いていたんだけど
裕太からのメールにほっとしたのもつかの間、メールの内容にしばらく呆然としてしまった。



8/29土12:36
件ごめん由美子
先日は久々由美子んちの旅館に泊まれると喜んでいたのに、親父が県央病院に担ぎ込まれたなんて電話が入り取り急ぎ病院に行って由美子の親にも迷惑を掛けてしまったね。本当にごめん。そちらのおとうさんおかあさんにもよく謝っておいて欲しい。

実は親父は俺に黙っていたんだけど母さんの話によると慢性骨髄性白血病だそうで。病状としては最初そんなに重くないのでグリベックとかいう薬で治療して病状はよくなりかけたんだけど。ほらもう歳だろ。再発したらしくって今度は骨髄移植するしかないんだって。ほらいつやら本田美奈子がしたっていう治療。でも必ず治るわけでもなく移植前に体力が持たなくって駄目になることもあるんだって。当面入院生活だよ。

うちは、農家だから親父がやりかけた田畑の面倒を引き継がないといけなくなったよ。会社には訳を言って来月引き継ぎしながら退社することにした。兄貴は大阪に行ったままだし、元々実家に帰って家を継ぐ気なんか無いとか言ってた。農大出たおれが農業を引き継げば良いだなんて。

だから、由美子ごめん。由美子んちにいけなくなった。由美子がうちの田舎に嫁に来てくれれば良いんだけど・・・・。
由美子の親父さんには電話しておく。
どうなるかわかんないけど、一応ね。
由美子も今のところ親父は大丈夫だから心配しないで。

ではでは。


彼のお父さんの事が心配で自分のことがすぐには理解できなかった。
いつもそうなのよね。気づくのが遅い自分が嫌だ。
 しばらくして自分のことも気づいたけど、不思議と涙が出なかった。
それは、たぶん彼と別れることより自分の愛するお父さんやお母さんと別れることの方が
悲しかったから。自分の境遇が、裕太からのメールでやっとわかった。
 あたしは旅館の一人娘なんだと。

この旅館をこれから続けていくのは、あたしのこれからの人生にかかっているんだと。
メールを読み終わった翌日に不思議と実感が湧いてきた。

 それは遅すぎたのかも知れないけど。



(画像は創作時のイメージ 映画祭とは関係ありません)

エンディング【潮風に ことばをのせて】


由美子の気持ちは、
潮風にもうのせてしまっていた。 


あたしは、もういいの。彼にはついていかない。

この地で生まれ、そしてこの地で老いていくことになるだろうけど

いつか現れるダンナ様に尽くすの。
そして、いっぱいのいっぱいの子供を生んで、そして育てて。

いくつもの喜びと幸せをつくっていくの。

いつか、同窓会で彼に会うことがあったら、
あの時は幸せだったけど、『今はもっと幸せ』って
言える自分を見つけるの。

あの人にはついていかない。
それがあたしの生きるってこと。

そのとき、ふっと吹いた潮風とともに由美子の被った 
つば広なストローハットが空を舞った。
由美子は青い空を、まぶしそうに見上げ潮風に

言葉をのせた。 



広島ブログおわり

次回は、実写版「潮風にことばをのせて」
どういう形で日記へ反映させるか 考え中(笑)
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by hustle_karn | 2009-11-29 19:45

原作 「潮風に 言葉をのせて」 4 しまね映画祭 選考作品

b0093361_12175587.jpg
 

【家族会議】

 裕太の気持ち。あたしは受け止めたかった。 
その晩、お父さんとお母さんに本当の気持ちを話した。

 「この旅館は、由美子がいなくても続けていくつもりだ。・・・・と言いたいところだが、
残念ながらその後継者が見あたらない。お父さんとお母さんの体が続く限りこの旅館は
やっていこうと思う。なあ母さん。」

「そうよ。由美子は自分の好きなように生きなさい。たった一度しかない人生でしょ。
あなたの悔いの無いようにしなさいね。」

「お父さん。お母さん ありがとう」
何より父母の気持ちがうれしかった。あたしは、裕太について行く気持ちを決めた。」
と、そのあとお父さんが口を開いた。

「由美子。ただな。由美子が役所に勤めている間はこの旅館を手伝ってくれないか。
お父さんとお母さんの二人っきりだと夏場はどうしても忙しいからな。」
「お父さん、いつまでも由美子がいる訳じゃないでしょ。二人でやれることをやっていきましょ。ね。」
「そうだな。おかあさん。」

その晩、裕太の携帯電話を何度してもつながらなかった。
裕太にこの気持ちを一刻も早く伝えるつもりだったのに。
仕方なくメールをした。メールした後に思いついたこと。

「そうだ、裕太の所へ行ってもみよう。」
由美子は週末の休みを利用して、一人で裕太の実家に行ってみることにした。


【田んぼでの再会】

とうとうここまで来てしまった。
あれだけメールしても返信がないし、携帯電話をしても留守電のまんまだし、
彼ってどうかしてる。こんなに心配してるのにあたしの気持ちなんか全然わかってくれてないし。
だから押しかけてきたの。彼の実家まで。


車の免許を持ってないあたしにとってこんな山の中まで来るなんて海外旅行に等しい。
液からタクシーに乗せてもらって来たのは良いけど、住所だけじゃわかんないから名前を
言ったら今日はここにいるってタクシーの運転手さんが教えてくれた。
タクシーを降りて運転手さんの指さす方角に田の中でなにやら
ごそごそしている青年がいるのでとりあえず行ってみると。


やっぱり裕太だった。後ろから脅かすつもりはなかったけど声もかけずにそっと後ろから近づいた。

「ゆ~う~た」

その声にやっと気づいたのか裕太が振り返った。

「由美子・・・・・」

急な来訪者にとまどいを隠せず、彼の少しうろたえた顔が悲しかった。
あたしが来てはいけなかったの?
ねぇ、裕太。


「遠くまでよく来たね。ここは暑いから取りあえず家まで行こうか?」
そういうと、裕太はしたたり落ちる汗を首から掛けたタオルで拭きながら
道ばたに止めた軽トラックにあ足しの荷物をのせ、助手席に座るように催促をして、
二人で家に向かった。

「暑いね。裕太」

「そうやな。」
裕太は少しぶっきらぼうに返事をしたまんま黙ってしまった。あたしが来たのは迷惑?
そんなオーラを感じ取ったあたしは黙り込んでしまった。


広島ブログつづく

いよいよ次回は最終回

最終回の後に 映画「潮風に ことばをのせて」公開です。
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by hustle_karn | 2009-11-29 19:27

原作「潮風に 言葉をのせて」 3 しまね映画祭 選考作品


(youtube 動画は作品と関係ありません。 創作時のイメージです。)


【裕太が我が家に、やってきた】

まだ自分が高校生だった時代に農大生の裕太が旅館のアルバイトに来ていた期間は、
休憩時間にこの護岸のコンクリートの上に二人で海を眺めながらおしゃべりするのが楽しかった。
というか、もうその頃には彼に心惹かれていたんだと思う。

 「由美子ちゃんは、お嫁さんにいくのかな」って言われたときも、
まだ世の中がわかってなかった子供だったから

 「あたしだってお嫁さんにいくわよ。だって女の子だもん」
って口をとがらせて怒ったけど、もうその頃裕太には現実が見えている大人だったんだ。
旅館の一人娘がお嫁に行くってことがこの家族にはどんなことなのかってことを。

でも、突然のようにその日がやってきた。


「おじさん、今日こちらに伺ったのは、由美子さんと結婚したくて、
僕に由美子さんを下さい。というお願いに来ました。」
 父はその言葉が聞こえなかったかのようにとうとつと裕太に話始めた。

 「裕太がこの旅館を手伝ってくれたのは、もう何年前のことになるだろねぇ。
あの頃はまだ島根農大の学生さんで。夏の忙しい盛りにアルバイトに来てくれてたんだよな。」

「もう六年前。二年生と三年生の時に手伝いに来てました。」
「四年生の年は卒業研究とやらで手伝いに来ることができなくて
学校の後輩君を紹介してくれたんだけど、そのときの由美子の残念がりようは今でもよく覚えているよ。」

「そうそう、あのとき何度も携帯電話に由美子ちゃんから電話が入って。三日だけでも良いから手伝いに来てよ、ってね。だからゼミ合宿を一日抜け出して後輩の様子を見に来たんですよ。」

「そうだったな。せっかくだから晩飯だけ食って行けって言ったら、食べた分だけ働きますって
厨房に入って皿洗ってくれたんだよな。母さんも裕太が一緒にいるから楽しそうでな。

うちは一人娘の由美子だけだろ。昔から男の子が欲しいってうちのやつは言ってたんだけど結局男の子が出来ずじまいで。まるで息子が帰って来てくれたみたいにあの時はうれしそうだったよ。」

 「そんなにおばさん、うれしそうにしてましたか?。そういう風に言ってもらえるとうれしいな。」
「あの晩、母さんと二人で裕太がうちの息子になってくれたらなって話したんだ。」

 父はそう言ったあと、少し咳払いをして何かためらうような感じだったが、

裕太に対して頼み事をするように
 「今日のことは由美子からは聞いていたんだが、
由美子を裕太の嫁にすると言うことはこの旅館を継いでくれるかどうかということなんだが・・・・。」

「そのことは由美子ちゃんとも話していたんです。
今勤めている会社とこの旅館のことはいつか考えなくてはいけないかなと。
その上で由美子ちゃんと一緒になる事を考えなくてはと。二人で話はしました。
だから、結婚しようって二人で話し合いました。」

「そうか、そのつもりで・・・」
そう、お父さんが話しかけようと間が開いたそのときだった。
裕太の携帯電話が鳴った。 

「もしもし・・。え?。父さんが・・。」
裕太の顔がみるみるうちに曇り始めた。どうやら自分の母親からの電話らしい。

広島ブログ

つづく

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by hustle_karn | 2009-11-29 19:13


年が変わり今は【蔵】(ZOH)。どんな蔵が出てくるやら^^


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